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だから愛しています”ご主人様” 緑

こんばんわ、アルティメット☆ルイルイです
寝違えて首がやばいです
しっぷはったら強すぎて痛い
どうしよう


さてさて、ひさしぶりに「抱かぬし」のSSです
今回はかなーり気合をいれて書き上げました

綺麗さを目指して書きましたので、それを感じていただければと思います

前置きは不要ですね、それでは、どうぞ







萌ゆりて芽吹け




”緑”
より正確に言うならば、私の髪は萌葱色
そう、ご主人様が言っていた
男「緑ってのは、瑞々しいとか芽吹くとか育つとか、なんかこう、うーん。輝いてる色、だよな」
緑「輝いてる?」
男「そう」
私は先のご主人様と同じように、うーんとうなった
指先で前髪を軽く弄ると見慣れた緑色の髪が数本、分け目から外れて眼前へと流れ出る
近すぎてピントが合わなかったから、私はそれを持ち上げてじっと眺めた
緑「眩しくない」
男「そういう意味じゃないぞ」
分かってたけど、ご主人様を茶化してみたかった
この人はからかうと面白い
男「えーとだな……」
ご主人様は顎に手を当てて首をひねる
考える時によくやる仕草だ
男「瑞々しいってのは水水しいってのと同じ事だから……、あ、言葉で言ってもだめか、うんと、字で書くとだな……」
ほら面白い。噛み砕いて説明しだした
ご主人様はお馬鹿さん
私はそんなに馬鹿じゃないのにね
でも止めたりしない
だって面白いんだもん
止めたら面白いの終わっちゃう
だから私はご主人様と一緒にベッドの上で鳶(とんび)座りしながら、机から持ち出した紙に字とか絵を―へたっぴだったけど―描いて説明してくれる私のご主人様を、何も言わずに眺める
正直、この人はちょっとずれてると思う
あんまり普通って分からないけど、近くの村の人とか、院長幽霊さんとか、女様とか、いろんな人と喋って、最近その事に気付いた
ご主人様だけはちょっと違うなって
いつもあまり喋らないくせに変なトコで細かく説明してみたりとか、ニートだったくせにたまにかっこいい事言ってみたりとか
あ。「くせに」とは言ってるけど、馬鹿にしてるわけじゃない
それならそれでいいのに、なんだかたまに私達の予想を裏切るから、普通の人じゃないって言いたいだけ
そんなとこも良いかなって思ってるのは秘密
第一、ご主人様は自分なりに私達のこと思ってくれてる事くらい、言わなくたってさすがに分かる
男「分かったか?」
耳に入る声に、眼に入る姿に、鼻を突く匂いに、時々触れるその手の感触に。そんな私を魅了する感覚に浸っていたから、言葉を意味としては聞いていなかったけれど――
緑「うん」
――イメージとして最初の時点で理解していたから、私はそう答える
分かったんじゃなくて、分かってた。が正しいけどね
男「萌葱色はそんな緑の中でも、一際緑らしい緑だ」
緑「?」
その話は分からなかったから、私は自然と首をかしげる
男「『萌葱』は、元々『萌木』と書いたんだ。萌芽(ほうが)という言葉があるように、『萌木』は新しい命が芽吹く事そのものを意味する。つまりな、さっきの説明を踏まえれば緑の中でも最高級の名前だって言えるんだ」
さっきの説明を聞いていなかった事を一瞬後悔しそうになったが、私は一番最初の言葉を思い出して安堵する
「緑ってのは、瑞々しいとか芽吹くとか育つとか、なんかこう、うーん。輝いてる色、だよな」
瑞々しくて、芽吹いて育つ色が緑ならば、芽ぐむ(萌む)の字を持つ萌葱は、確かに緑の中の緑だ
きっと、それを詳しく説明しただけだったのだろう
男「まぁ、だからなんだってわけじゃないんだけどな。もう春だし、なんとなくそんな事を思っただけだよ」
緑「春はまだ見たことない」
男「そうか、そう言えばそうだな。四季は日本でしか見れないんだっけか」
緑「ヴィヴァルディ」
男「あ、『四季』か」
緑「うん」
今例として挙げられたヴィヴァルディは、ヴェネツィア出身の作曲家で代表曲に『四季』を持つ
最近音楽をやりだした茶から聞いて知ったのだ
男「ヨーロッパ?」
緑「そう。この国だけじゃない」
男「なるほど」
緑「でもこの国は、他に比べてとてもその変化が顕著。……らしい」
男「らしい?」
緑「見たことないから」
男「なるほど」
私達がご主人様に連れられてこの国に来てから、まだ一年も経っていない
ここに来る前は年がら年中暑い土地だったし、そもそも精神状況が極限だったのもあってそれすら気にも留めていなかったから、私は四季というのをあまり理解していない
知識として知ってはいるのだがそれだけだ
この特異な気候は、多分経験してみないと分からないだろう
男「この辺りならきっと、綺麗な四季が見れる。特に春は綺麗だぞ……いや、綺麗らしいぞ」
緑「らしい」
男「見たことないからな」
緑「真似っこ」
私がそう言うと、ご主人様は軽く笑ってくれた
男「萌葱色の山に山桜が咲くらしい。そりゃぁもう絶景だろうな」
私はもう一度、自分の髪を下ろして指で弄る
萌葱色
それは一体、どんな色なのだろう
自分で見てるはずなのに、分からない
なのに私が頭の中に想像だけで思い描くそれは、とても綺麗で、美しくて
緑「見たい」
そう、呟いていた
男「もうすぐだな」
いつか見れるであろうその景色に、私は思いを馳せる


と、そんな話があったのが数日前の夜係の日
私はあの日以来春の到来が待ち遠しくて、何度も玄関先に出ては周りを見渡していた
茶「最近よく外を見てるけど、何かあるの?」
そんな私を見かねてか、茶が話しかけてきた
緑「春」
茶「春? ……あぁ、この国の季節だっけ」
緑「そう、春」
茶「確かに時期は春に入ったと言えそうではあるけれど、それがどうしたの?」
緑「春が見たいのに、春が来てるのか分からないから」
茶「なるほど、春が来てるのか知りたかったんだね」
春は萌葱の季節
ご主人様に自分の髪色が萌葱色だと言われてから、なんだかむしょうにそれが見たかった
まるで自分の季節みたいに感じられたから
茶「……うーん、でも何かが変わってるような気はするんだけど……、私も分からないなぁ」
緑「うん」
だけど茶の言う通り私には、多分私達には、その季節の変化を敏感に感じ取る事が出来ないようだった
外を見れば何か変わってる気はするのに、いつも通りにしか見えないから、じっと風景を見つめてその変化を探す事しか出来なかった
赤「あ、あれ、二人とも何してるんですか?」
茶「春を探してるんだよ、赤ちゃん」
赤「は、春、ですか? うーん、また難しいものを探してますね」
緑「赤は知ってる?」
赤「皆と同じ、知識だけですよ。経験した事がありませんから、なんとも……」
緑「ふーむ」
赤「あ、でもでも。私お花育ててるんですけど、アネモネとか、ライラック、後私が今中庭で育てているサイネリアっていうお花が咲けば、春がやってくるのだと聞きましたよ」
緑「お花が咲けば春?」
赤「そういう種類であれば。あれ、ちょっと違う、かな? 春が来ればお花が咲いて、それが私達への春の報せになる。が正しいと思います」
緑「うーん、もう咲いてるの?」
赤「サイネリアはまだですね……。他はどうでしょう、私はまだ始めたばかりなので、ここに持ってきて育てているのはサイネリアだけなんです。だから一度村に下りて、他の方のものを見に行かないと分からないですね……」
春を呼ぶ花なのか、春が花を咲かせるのか、少し気になったがそれは些細な問題だった
とにかく花が咲けばそれは春が来た事の証明になるのだと言うのだから、私は早くそれが見たかった
茶「ふふ、緑ちゃん、行きたそうね」
私は顔に表れていたのかと、少し赤面する
赤「私今日オフですし、行ってみますか? 実は私も気になりますっ」
緑「むぅ」
しかし今日はオフではなかったのだ
はやる気持ちは優先したいが、それでも何より私の中で一番に立つのはご主人様に関わる事
オフでないのにそれを投げ出して出て行くことは出来なかった
茶「行ってきなよ、緑ちゃん。オフじゃないって言っても、取り立てて緑ちゃんがやらなきゃなのってお夕飯当番くらいだよね。なら他はやってあげるから」
緑「む、むぅ」
迷った
ご主人様関連が一番だと言っても、考えてみればどちらもご主人様に関連していた
この家でご主人様に何かするのも、ご主人様に言われた自分の色を探すのも、結局ご主人様が私にくれた原動力
気になる、したい
そういった気持ち
緑「うーん」
でもそれでも、やはり悩んでしまう
どうしよう


結局、私は赤と共に外へ出た
たまにならいいかなって、好奇心に負けてしまったのだ
お夕飯の準備までに戻れば大丈夫だよね、なんて心の中で言い訳をする
赤「勝手に出ちゃったのが気になりますか?」
緑「少し、ちょっぴり」
むぅ、また顔に出ていたのだろうか
赤「絶対、誰も咎めませんよ。逆の立場で、緑ちゃんはそうしますか?」
緑「しない、分かってる」
赤「そういう事です。せっかく行くんですから、楽しく楽しくっ」
誰も怒らないと分かってるから、その分逆に自分で気にしてしまうという面もあるのだが……
赤の言うとおり、気にしていても仕方ない。せっかく行くのだからね
私は軽い土産話を一つ持ち帰ればチャラだろうと、自分を納得させた
赤「ところで」
山道を下り終え、村へと続く道へ入ると、赤が聞いてきた
赤「何故春を探してるんですか?」
緑「萌葱色が見たいから」
私はご主人様との話を伝える
赤「なるほど……、春には萌葱色が映えるのですか。むぅ、緑と黄緑くらいしか、区別が分かりませんね」
緑「私も」
細かい色の区別というのが分からないというのも、春を感じられるか感じられないかに大きく関与してるだろう
自分の髪を見ても「緑だ」という以上の何かが分からない
緑「色で分からないから、春が来たのだと分かりやすいものが見たくなった」
一体春とは何なのか
赤「咲いていると、いいですね」
緑「うん」
土色の田んぼを眺めながら考える
この田んぼも夏が近くなれば田植えというのが始まって緑に染まるらしいが……やはりこれも想像できない
それも萌葱色なのだろうか……
その時、穏やかな風が私達を包んだ
赤「わわ」
ただただ、風が吹いただけだった
なのに、いつもと違う
赤「なんだか今、いつもと違う風が吹きましたね。驚いちゃいました」
緑「うん」
赤「暖かかったですね」
緑「うん」
何かが掴めそうだった


村について、赤と共に一軒の家の前に立つ
赤「ここでガーデニングの事をよく教えてもらってるんですよ」
赤は手馴れたようにインターフォンを押すと、しばらくして家主と思われる陽気な声が中へ入れと促した
私は赤の一歩後ろを歩きながら付いて行く
するとそこには、幾人もの人々が集まっていた
大半は老人で、その中には私が話したことのある人もいる
赤「皆さんよくここでお茶会してるんです」
耳打ちで赤が説明してくれた
なるほど、ここは集会所のようになっているのか
すぐに私達はその輪の中に引き込まれる
まるで良い話の種を見つけたとでも言うような風だった
今日は何しに来たんだと話を掛けられる
赤「春のお花を見に来たのですよ。先日頂いたサイネリアはまだなのですけどね」
そうかそうかとニコニコしながら数人が立ち上がると、花壇をさしてこれだこれだと言う
赤「あら、まだ咲いてないですね……」
そこにあったのは、まだ蕾の花だった
もう少しで咲きそうなのは素人目ですら一目でわかったが、まだもう少し時間がかかるようだ
しかしそれは確かに春が後一歩まで近づいているという証明
もう目の前に春はあるはずなのだ……


男「あれ、赤と緑じゃないか」
突如、聞きなれた声が後ろから聞こえ、驚いて振り返る
そこにはご主人様が立っていた
女「え、なんでなんで?」
続いて女様が顔をだす
なんでと聞きたいのはこっちだ
男「何してんだ?」
赤が斯々然々(かくかくしかじか)と説明する
男「あー、なるほど。それでか」
女「何々、あんたそんなクサい話してたの?」
男「く、クサいか……?」
私と赤はフルフルと首を横に振る
男「クサくないってよ」
女様は溜息ついて、それにはそれ以上突っ込もうとしなかった
男「で、春は見つかったか?」
また私達はフルフルと首を振る
春は見つかりそうではあるのだが、まだ見つからない
そのはずなのだが……
何故か、ここに居る村の人々は、既に春は来ているというのだ
緑「なんで?」
私はご主人様に聞く
村人達は、春が来たとは言うものの、理屈で説明してくれなかったから
男「うーん、難しい」
やはり説明するのは難しいのだろうか
男「だけど、きっと今日の夜には分かるよ」
緑「なんで?」
男「それはお楽しみだ。な」
女「まぁこいつがそのつもりみたいだしね。本当は今日の夜ギリギリまで言うつもりはなかったみたいなんだけどー」
男「本音は確かに隠したかったけどな」
女様が腕を組み、まるでメイドとは思えない体で立つ横でご主人様は苦笑する
赤「良かったですね、緑ちゃん。今日中に春が分かるみたいですよっ」
男「あぁ、期待に添えられるはずだ」
緑「ふむむ、楽しみにしてる」
男「そうしてくれ」
さすがご主人様
私が無理に探そうとしなくても、ちゃんと用意しててくれた
私のために、というわけでは無さそうだけど……
それでも嬉しい


緑「あ」
男「ん?」
緑「ご主人様はなんでここにいるの?」
男「それも今日の準備のためだ。詳しくは後で話すよ」
緑「分かった」
わくわくした
一体ご主人様は、私達に隠して何をしてくれようとしているのだろうか
予想も付かないけれど――
――きっとそれは、楽しい
ご主人様は私と赤の頭をポンと叩くと、村人達の輪へと向かう
すると私達のやりとりを見ていたのか、彼らはまた話の種だと声をあげる
「ほんに良いお家だのう! 良き主に良き従者とな、今となっては珍しいもんじゃ」
「はっはっは、お前さん方のおかげで村にも活気がつくわい!」
ご主人様は人ごみは得意ではないが、この場ではずいぶん明るくその声に答えていた
村の人は皆穏やかだから、心も落ち着くのだろうか
赤「あ、お茶を皆様にお出しし忘れてましたっ。おば様っ、お台所お借りしますね!」
大きな声で赤がそう言うと、それに勝る大きな家主の声が返ってきた
すぐに赤は台所へと向かう
緑「勝手知ったる他人の家」
女「赤はよくここに来てるのかー。知らんかった。メイド長なのに!」
緑「私も知らなかった」
女「よっし、人多いし、赤手伝うか!」
私がそれに頷こうとすると
男「あ、緑! ちょっと来てくれ」
ご主人様に呼ばれてしまった
女様は明るい顔で私の背中を叩くと、台所へ向かった
任せろってことだろう
女様は一見雑な方だが、本当はこんな些細な所でも気の利く人なのだ
コミュニケーションが上手だと思う。メイド長は伊達じゃない
だから私は気兼ねなく、ご主人様の元へと向かった
緑「どうしたの?」
男「まだ俺の口からお前の事をこの村の人に紹介してないからな」
緑「そうだっけ」
男「一応な。ま、こういう場に俺が居るのは滅多にないから、他の子達もとくにしてないんだけどな。赤と女くらいか」
確かにご主人様は、あまり村まで降りてくることはない
交流はあるようだが、それはほとんどが私達を通じてだったり、村から珍しがってあの家まで来る人と話す程度だ
全員で来たのは、一番最初の挨拶の時くらいだったろうか
さすがに挨拶程度で、十一人も一軒一軒に紹介するわけにもいかなかったのだ
男「もう知ってると思うが、こいつの名は緑。うちの料理部長だ」
料理上手いの! 異国の料理か!? コックか!? と、皆興味津々なようだった
私はちょっと恥ずかしい
別に料理部長でもなかろうに
男「妹みたいだと最初は思ってたんだが、不思議と皆をまとめてくれてな、頼りになる奴だ。頭も切れるしな」
むぅ、紹介だからといって褒められれば恥ずかしい
むー、困る
あ、妹にはなりたいかも
でも妹になったら、あれやこれやが出来なくなるんだっけ?
うーん、やっぱりこのままの方がいいのかも?
男「後はそうだな、緑の髪が春みたいだな、夏とはちょっと違う」
どっと笑いが起こる。それは紹介になってないだろう、と
そういう笑いを狙ったのかと思ったのだが、ご主人様は「そういえばそうだな」とか、心底マジメに言ってるもんだから私も噴出してしまった
ご主人様はかるく頭を掻くと
男「ま、そんな奴だ。良くしてやってくれ」
そう言って紹介を締めた
二十秒にも満たない紹介だったのに、皆はしきりに良い娘だとかなんだとか騒ぐ
内容はとくに気にしないのだろうか
でも、うん
なんだからちょっと嬉しい、かな
女「何よー、あたしの説明の時はあんなに適当だったくせに!」
すると女様と赤が、お茶を盆に乗せて持って来た
男「聞いてたか」
女「台所すぐそこだし!」
男「それもそうだな」
緑「女様はなんて紹介されたの?」
女「雑でぶっきらぼうで適当で五月蝿い」
男「よく覚えてるな」
赤「ご、ご主人様、それはひどいですよっ」
女「ねー!」
なんとなく的を射てる気はする
さっきも言ったように、女様は一見そういう人だ
でもそれはあくまで外見で、実はとってもすごい人
ちなみに私は皆に公言したことはないが、ご主人様と同じくらい女様を慕っている
年的にどちらも親というような年齢ではないが、それと同じくらいにだ
私達が救われた時、私だけが女様とご主人様の二人に助けられた
最初以降、男様がぐいぐいと独断で行動していったから、他の子にはご主人様に助けられたというイメージが強いのだろうが
最初、つまり私があそこを脱走してから店長の部屋で話すまでの短時間、ご主人様と女様は二人で私を庇ってくれた
だから私は、二人を同じような意味で慕っている
その気持ちはたぶん、他の子とは違うはずだ
なんて少し回想していると、お茶を出す手伝いをし損ねてしまった
むぅ、メイドなのに


その後、私と赤は先に帰らされた
お夕飯を作らないといけない、というのもあったのだが
ご主人様が「出来るだけ驚かせたいから」と私達に帰るよう命じたのだ
調理場の椅子に座って冷蔵庫とにらめっこしながら献立を考える
夕飯は出来れば外に持ち出せるものが良いとご主人様は言っていた
さて、何にしようか
材料はふんだんにあるから何でも作れるのだが、これが意外と困りの種
多ければ多いほど選択肢が多くなって、迷ってしまう
私がうーんと首を捻っていると、調理場に褐と銀が入って来た
褐「お、緑ここにいたんだ。今日あんまり見かけなかったね」
緑「うん、お出かけしてた」
銀「なるほど~、隠れて大人の階段でも上ったのだね!?」
緑「そうそう」
社会経験的な意味で、ね
褐「大人の階段って何? 銀」
銀「それはですね~」
黒「こら、何あほなこと言ってるんだ」
音もなく入って来た黒に、銀は頭を小突かれる
銀「あう~、痛いよ黒ちゃん~」
褐「大人の階段はあほなことなのか!?」
黒「知らなくていい知らなくていいっ」
銀「知るべきですよ! ね、緑ちゃん」
緑「うん」
何のことだか、私も大体分かっている
その上で同意すれば……
黒「こ、こら緑! え、緑も理解してるのか!? む、むぅ、私が青いのだろうか……」
……ほら、面白い
緑「いつもご主人様のこと青い青いって言ってるのに」
黒「それはご主人様がからかうと面白いからであってだな……」
褐「ちょっとちょっと、僕を置いていかないでくれよー」
緑「いずれ分かる」
褐「そんなもんなのかー? もうちょっと本読まないとだめそうだ」
銀「おぉ、ならばお勧めの本が……っ」
黒「あーあーあーあー! 読ませるな、銀!」
少し読んでみたいと、私は思うな
しかし褐はなぜあの場に居た娘なのに、こういう遠まわしな言い方には無知なのだろうか
勉強したようなしてないような……
褐「まーいいや、とりあえずそれは後で分かるんだろ? それより今はもっと重要なお夕飯のことのほうが知りたいっ」
銀「そうだねぇ~、また今度じっくり……」
黒「やめとけと何度言えば……全く。それで緑、今日は何を?」
うーん、まだ決めてないんだよね


とりあえず私は、お弁当のようなものを作ってみた
外に持ち運びできるもの、という範囲でも作れるものは多い
カツも切れば持っていけるし、からあげや卵焼きは定番だ
それ以外にも肉巻き春巻き漬けの物。つくねに団子にしそ焼きに。もうなんでも持っていける
また白いご飯以外にもおこわとか混ぜご飯とかつくれるし
弁当という事でどうしても水気がなくなる所は、野菜を多くして補助すればいい
例えば高菜やホウレンソウは代表的だね
緑「ま、こんなもんかな」
銀「さすが緑ちゃんっ、お料理お上手っ」
黒「うむ、いつ見ても素晴らしい」
褐「早く食べたいー!」
緑「まだだめ」
褐「うーうー」
しかし完成したものの、私は決めかねていた
これをどう盛ろうか……
お弁当にすべきなのか、しないべきなのか、ちょっと判断がつかない
だがそれも、ドアを大きく開けて入ってきた女様によって杞憂に終わった
女「もう出来てるかいっ」
緑「この通り」
女「さっすが緑! うんうん、いいね。そいじゃ皆、弁当箱に詰めるよ!」
褐「弁当箱……? あ、確かにこれ全部……」
黒「本当だ、気付かなかった。全部弁当として持っていけるな」
緑「ふふふ」
銀「や、やりおる!」


弁当箱に詰め終わる頃には、もうすぐ七時を迎える頃になっていた
女「うん、余裕で間に合ったね」
褐「何をするんですか?」
女「ふっふっふ、それは秘密っ」
銀「大人の階段を……」
黒「それから離れられんのか君はっ」
銀「はっはっは。で、どうすればいいんでしょうかっ」
女「えーとだね、とりあえず七時くらいに玄関に全員集めろってあいつから言われてるかな」
緑「なら、皆で他の皆を呼びに行ったほうがいい」
褐「そうだな、とりあえずここに全員集まってから、お弁当もって行けばいいと思う」
銀「うむうむ」
黒「では」
女「召集開始!」


こうして私達は、各自お弁当やら飲み物やらを持って玄関へと集まった
辺りは既に暗かったが、空は澄んでいて、それほど寒くもなかった
男「よし、全員そろったな。悪いな、いきなりで」
茶「いえいえ、皆楽しそうですよ」
男「それならいいけどな。さて、ちょっと山道を歩くぞ」
山道?
ご主人様は山のなかで夜中にピクニックでもするつもりだろうか
金「どこへ行くのです?」
男「もっともな質問だが、見たほうが早い」
ご主人様はそう言うと、大きめのかなり明るい懐中電灯を持って進み始めた


その山道は、いつも村へ降りる途中にある分かれ道で分岐している
いつもなにがあるのか気になってはいたのだが、向かう先が山の中なために中々進む機会がなかった
だからこの道に入るというだけで、私は期待に胸を膨らます
山道はやはり暗かった
昼ですら薄暗いのに、夜ともなれば太陽が沈み月光しかないのだから当然か
頭上に広がる木の枝を抜けて注ぐ月光は弱弱しく、光として私達の役には立ちそうになかった
しかしそれはとても綺麗で、私の目を奪う
金「なんだかトラウマを思い出しますわ……」
緑「トラウマ?」
金「大した事ではないのですけど、ほら、先日私達が迷子になったときがあったでしょう?」
緑「そういえば」
そうか、確かに金にはそんな事があった
すると金の後ろから桃が迫ってきて、ばっと抱きついた
桃「お化けだぞ~」
金「ひゃっ! ……って、桃!」
桃は笑いながら、ひょいっと金の横へ立つ
桃「金ちゃん驚いた?」
金「べ、べつに驚いてないですわ、そもそもお化けなんて……」
幽「呼んだか?」
金「ひっ」
そう、幽霊は、いる
幽「はっはっは、金はいつもそんな反応だな。慣れないのか?」
金「慣れませんわよ! もう!」
桃「金ちゃんは怖がりだね~。最近かまないっ」
金「怖がりじゃありませんわ! 普通の反応です!」
緑「私そんな風に驚かないよ」
桃「ねーっ」
金「ううう」


金をからかいつつ山道を進んでいると、時間はあまり感じなかった
男「ちょっとここで待っといてくれ」
そこは小高い丘のちょっと手前
それより向こうが見えないから、何があるのかちょっとわからない
ご主人様はその一番上へ小走りに進むと、辺りを見回して頷いた
そして私達を手招きして呼び寄せる
なにが出るか
私はそれをみるのに少し心構えしながら、他の子にくらべゆっくりとその丘を進む


そして、私は見た
パッと広がる視界、飛び込んでくる景色
光がなくて見えないんじゃないか、そう思っていた
確かに山道はあまり遠くまで見えない
だがここだけは、……違うな、この区域全体は、そんなことおかまいなしだった
緑「これは……」
その光景は余りに幻想的
故に優美
まるで現実感のない夢の様な世界
緑「……すごい」
山をそこまで幻想的に染め上げる彩りは、緑、桃、橙、そして月の白
それが黒き額縁の中にすっぽりと納まり、この夢を作り上げる
それはまるで別の世界
自分達の住むこの世界とは、どうしても同じには思えなかった
美麗(びれい)艶麗(えんれい)絢爛(けんらん)華奢(かしゃ)
そのどれもが当てはまる、雅やかな大山水画
一瞬にして、その広大な画に、私の心は捕らわれた
広がっていたのは、萌葱色の山と、それを彩る桃色の山桜
さらにそれらを明るく照らす数多くの橙色の提灯
丘から見えるその山は、月と提灯に照らされて……
それ以上の言葉を飲み込んだ
男「こいつが萌葱色の春だ、緑」
これが、萌葱色の春……
あまりに予想を超える景色
男「緑が春をちゃんと認識できなかったのは、家の周りにあるのが常緑樹だからだ」
言葉がでなかったから、仕草だけで聞き返す
男「常緑樹はツバキやクスノキのことで、一年中葉をつけてるんだ。だから、四季に気付きづらい」
ご主人様は私のほうける顔に苦笑しながら、言葉を続ける
男「それでな、今日は隣の、といっても結構遠いんだが、その村のお祭りなんだ」
お祭り……?
男「狐の嫁入りを模した祭りで、この時期、山中に提灯をつるして一斉に点灯させる。そうしてできるのがこの景色だ」
言われてみれば確かにこれは狐の嫁入り
話には聞いた事がある
男「この祭りがあるのを聞いたのは、つい先日だ。だから今日、どこでやるのかとか、どこなら見やすいとか、そういう詳しい話を聞くために村に下りたんだ」
そういうことだったのか……
男「どうだ、期待には添えられたか?」
緑「期待……以上」
男「それは良かった」
ご主人様は、ポンポンと私の頭を触る
そして耳打ちで
男「お前に一番見せたかったんだぞ、緑だしな」
といってくれた。
私はその言葉とこの景色が織り成す言い知れぬ感情に、しばらく捕らわれ続けた


ふっと吹いた風に、私は我に戻る
この風……、二度目?
昼ごろに確か……
男「お、こりゃいい春風だな」
緑「はるかぜ?」
男「そうだ。その名の通り、春に吹く風のこと」
緑「あ……」
そうか……
春はもう、とっくに
来ていたのだ


女「さぁ山桜見ながら宴会だ!」
静かなこの場で口火を切ったのは女様
そして私は思い出す
そうか、弁当を持ってきたのはこのため……
ばっとレジャーシートがしかれると、景色に見入っていた皆は一斉に準備をする
見とれてたのに準備は早い、それは私達メイドの誇りだ
ドンドンと置かれるお酒を見つつ、あぁ今夜は長くなるなと思う
女「よし、準備おっけー! 月も綺麗だから月見でもいいよ!」
金「どれも素晴らしいですわ」
女「それもよし、全部見尽くすべきっ」
桃「べきっ」
皆に飲み物が注がれると、ご主人様が音頭を取る
男「良い天気でよかった、こうしてこんな壮大な景色を俺達で独り占めだ。こうしてこの場に来れたのも、皆のおかげかな。これからも頼む。でも今日はとりあえず楽しもうか! 乾杯!」
「「乾杯っ」」


”緑”
より正確に言うならば、私の髪は萌葱色
萌葱は萌木と書き、故に緑の中の緑
この景色を見ながら、私はその会話を思い返す
こんな綺麗な萌葱色に、私の髪が相当するとは思えないが
それでもご主人様は私の髪が萌葱色だと言ってくれた
だから私は信じよう
この色は私なのだと
この色こそ緑である私の緑なのだと
この日、私はまた一つ「幸せ」を学んだ


あぁご主人様
貴方はこんなにも私に幸せを教えてくれる
こんなにも広い世界を教えてくれる
つたない知識しか持たない私に、ご主人様なりの世界を教えてくれる
それはこんなにも素敵で、私の心を捕らえて放さない
私は貴方のおかげで、狭き井戸から大海へと出で、そうして貴方と同じ船に乗ってこれからも海を渡ります
きっとそれはどんな人生より楽しい私の未来
貴方がいるから送れる夢のような現実

だから

だから愛しています”ご主人様”

緑fin




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No title

乙ー

幽霊の存在忘れてた

No title

乙ですよー。いやぁ毎回毎回…見てて顔が綻んじゃいますなぁ陛下万歳!色の子万歳っ!


桃もっと噛めよ!!

良い話だなぁ(´;ω;`)

相変わらずの読みやすさと内容に3回ほど連続で読み返しましたよ

所々外伝盛り込んでて楽しめ……あれ、褐が急に可愛く感じ……黒一択だったのに……あれ?

No title

感動しました

興奮が収まりません
責任を取って今夜は一緒に・・・

No title



緑可愛いな…黒も好きだが緑もかあいい…

また次回も楽しみに待ってます

No title

いいわぁ・・・

幽霊なのに酒飲めるのかwwww
まあ、あの院長なら飲めそうだwww

No title

ほのぼの~

乙です

No title

毎回話のおもしろさ、文章の綺麗さに驚かされます

No title

乙です~
いつもながら素晴らしいですね~
是非末永く読んで行きたいものです

返事

敬称略

>>とある道路の雑草
桃は最近かまないらしいよ!
乙ありですw

>>私怨
そんな読み返すような代物じゃないっす・・・っ
褐・・・だと・・・!?
緑メインの物語なのにww

>>(; ・`д・´)
それはよかった
でも同衾なんてしてあげません

>>歪
乙ありなのです
えぇ、これからもまだまだゴリゴリかいていきますよ~
こちらこそ末永く呼んでいただけたらこれ幸い

>>ななしの方々
皆様乙ありです
どのキャラも可愛いですw
ちなみに幽霊は幽霊だからお酒はのめませんっ
参加できなくて泣いていたことでしょう
綺麗にかけていたようで、何よりです
次回もまたおねがいしますねっ

乙ですっ
毎回胸がいっぱいになる

No title

最後のだから愛してますを見るとゾクッとします。良かったです

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プロフィール

あるてぃめっと☆るいるい

Name:あるてぃめっと☆るいるい
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物語とか絵とかゲームとか、
色々つくることが大好きです。
基本は文章書き。

2014年4月以降で現在お仕事募集中です。
お気軽にご相談ください。
安くて早くて安心ね! を目標に。
メールのレスポンスは超早いです。

連絡先は以下です。
bagarana☆yahoo.co.jp
(☆を@に)

Twitterはこちら→Ul_Rui_Rui
(たぶんコレが一番頻度高いです。
 細かい情報は全部ここで済ませてたりする)

ニコニコ生放送もやってます
コミュ→co15316

よかったらみてやってくださいまし

以下は僕のpixivですわー



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